布はなんで伸びたり縮んだりするの?

衣服のはじまり

人類がいつから衣服を身に付けていたか、何を衣服としていたか細かいことはわかっていません。ただ、そのひとつの可能性としては植物の葉というのもあるでしょう。

しかし、葉っぱは衣服として使うのに、いくつも問題があります。

形や面積が限られていること、伸び縮みしないこと、ちぎれやすいこと、保温性がないこと、吸湿性がないことなどなどです。

逆に言えば、現代の衣服に使われている布地には、葉っぱにはない、こうした特徴があります。

形や面積はともかく、なぜ、葉っぱは伸び縮みせず千切れやすく、衣服に使う布地は伸び縮みするのでしょう。

その大きな鍵が繊維です。

自由に動ける繊維が決め手!

「いや、葉っぱだって繊維はあるだろ!」と言われるかもしれません。その通りです。

食物繊維を摂るために野菜を食べようと言ったりしますからね。

たしかに、植物はたくさん繊維を含んでいます。葉っぱにある「目に見える筋みたいなもの」は繊維です。

葉っぱを薬品で処理して「葉脈しおり」を作ったり、網目のようになった「葉脈」を見たことのある方もいるでしょう。あれはまさに繊維です。

ただ、葉脈は、葉っぱの細胞に水や養分を送ったり、光合成で葉っぱの細胞がつくった養分を移動させるためにあります。そのため、葉脈は細胞でできた葉っぱの組織の中に埋まっています。その結果、生きている葉っぱの中で葉脈は自由に動けません。

葉脈しおりは、この細胞を壊し、細胞どうしを結びつけているペクチンなどを溶かすことでできます。

繊維どうしを固めているものを溶かしてしまえば、葉っぱもある程度伸び縮みできるわけです。

布地も、繊維でできていますが、繊維どうしはある程度、自由に動けます。もちろん、完全に自由だとバラバラになってしまいますが、お互い接していて、でも、多少の自由があるので、布地全体としては伸び縮みができるのです。

□の変形が実はミソ

もう少し正確に言うと、繊維が自由に動けるというのは、繊維のつくるネットワークが変形できるという意味です。

例えば、よくある布地は縦糸と横糸を文字通り縦横に組み合わせています。この場合、縦糸の方向や横糸の方向に引っ張っても、結局、糸を引っ張るだけなのでそれほどの伸び縮みはしません。

ただ、この場合、縦糸と横糸は小さな四角をつくっています。そこで、この四角(□)を対角線方向に引っ張ると、各繊維が動き、それぞれが平行四辺形やひし形に変形し、その結果、伸びが生まれます。上の図で、正方形や長方形だったときの対角線の長さが平行四辺形に変形することで変形方向に長くなっている(他方の対角線は短くなります)ことがわかるでしょう。

これがすべてではありませんが、布地の伸び縮みのひとつの原因です。

逆に言えば、布地でも縦糸と横糸を密に織り合わせたものは□状の網目がほとんど変形できないので伸び縮みはほとんどできません。

なぜ葉っぱは千切れやすいのか?

ところで、繊維でできているものには紙もあります。紙は普通伸び縮みしません。むしろ、破けてしまいます。

これは紙の場合、短い繊維が積み重なり絡み合ってできているからです。紙では、この繊維は、通常、セルロース繊維です。わかりやすいのが和紙です。

それぞれのセルロース繊維は、微視的に見れば引っ張っても簡単には切れませんが、セルロース繊維どうしは水素結合という弱い力でつながっているだけなので、引っ張ると結合が伸びるというよりは切れてしまいます。このため、簡単に破けてしまいます。

ちなみに、紙を水で濡らすと、セルロース繊維どうしの水素結合の間にさらに水分子が入り込むことになります。この結果、セルロース繊維どうしのつながりは弱まってしまい、力が加わるとすぐに破れてしまいます。最悪、ばらばらに溶けてしまいます。

葉っぱの場合も、セルロース繊維は細く短いものなので、繊維を含むと言っても簡単に千切れてしまいます。

一方、布地、特に織布は比較的長く太い繊維を長くまとめた糸を縦横に織っているので、強度は水素結合に頼っていません。このため、破れにくいですし、水をかけても丈夫なままです。

まとめ

実際に衣服に使われた繊維は葉っぱと言うよりは、つる植物のような茎から取った繊維だった可能性が高いでしょう。
今でも、川岸などにはカラムシという雑草が生えていることがありますが、これを水に漬けて腐らせたり叩いたりして繊維だけを取り出すと布地をつくることができます。

繊維から糸をつくり、さらに布地をつくるという知恵、今となっては当たり前のことですが、そんなことをするのは人間だけです。
考えてみると、繊維から布地をつくるってものすごく賢いことですよね。
何気なく身の回りにある布地ですが、よく見れば、その中で繊維くん(あるいは繊維さん)たちが頑張っているのがわかります。

それを陰ながら支えているのが、人間の知恵。改めて見ると、布地ってすごいテクノロジーなんです。

National Geographic「先史人類が着た衣服、服装の起源を探る」
(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8356/)