糸は伸びたり縮んだり

弾性糸って何?

衣服が快適な理由のひとつは伸び縮みすること。がちがちだったらかなり着こなしにくいでしょう。

伸び縮みの理由は、布地にもありますが、糸そのものが伸び縮みすることも関係しています。特に伸び縮みする糸を弾性糸と言います。

例えば、ブラジャーなどの下着、セーター、矯正下着、靴下、水着やレオタードなどのスポーツウェア、包帯やテーピング、衣類の袖口など、弾力性が特に必要な部分に使われています。

あまり意識されませんが、実はかなり幅広く使われているんです。今回のテーマはこの伸び縮みする糸についてです。

ゴムって何だ?

結論から言うと弾性糸の正体は基本的にはゴムです。

そこで、まず、ゴムの話を致しましょう。

ゴムはもともと天然ゴムから採られたものです。ゴムノキという樹木があり、その樹皮を傷付けると白っぽい樹液が垂れてきます。それを集めて固めたものが天然ゴムの原料になります。ちなみにゴムノキにはさまざまな種類があり、上の写真のゴムノキはパラゴムノキ。よく観葉植物にしているのはインドゴムノキで別の種類です。

ところで、この天然ゴム、生のままではかなり使いにくいものです。まず、気温が上がるとべたべたし、温が下がると硬くなってしまいます。また、全般にあまり丈夫ではありません。

これを改良したのがグッドイヤーというイギリス人。加硫という技術によりゴムの性質を飛躍的に改善しました。加硫はゴムの分子の間に硫黄でできた橋を渡す(つまり架橋する)イメージです。全く偶然だったのですが、これによってゴムは有用な資源になったのです。1839年のことでした。

車に詳しい人だと、グッドイヤーってアメリカのタイヤメーカーじゃないかと思われるかもしれません。そう、タイヤメーカーのグッドイヤーはアメリカの会社です。実は加硫を発明したグッドイヤーさんとの血縁関係はありません。グッドイヤーさんの名前にちなんでアメリカ人が設立したのがグッドイヤー社です。それほどグッドイヤーさんの発明は価値あるものだったのです。

あなたの部屋は片づいていますか?

ところで、いきなりですが、あなたのお部屋は散らかっていますか? きれいに片づいていますか?

なんだいきなりと思われるでしょうが、実は今回のお話はこれと関係があるのです。

あなたのお部屋はこんな感じ?

それとも、こんな感じ?

ゴムはなんで伸びたり縮んだりするの?

さて、ゴムはなぜ伸びたり縮んだりするのでしょう?

ここで、先ほどの話が絡んできます。

そもそも、世の中、自然な状態では乱雑になりがちです。こんな感じ?

これは「エントロピーは増大する」という法則と関係しています。

エントロピー増大の法則とは、単純に言えば乱雑さは増していくばかりということです。 言ってみれば、自然の摂理なので、何もしないと、部屋やクローゼットが乱雑さを増すようになっているのです。

こまめに整理整頓を心掛けなければならないのですね。

これがゴムの伸び縮みとどう関係するかというと、ゴムというのはもともとゴム中の分子がばらばらにいるものだからです。下の図の上のような状態です。なお、下図で緑の棒状のものがゴムの分子、赤いのが架橋のようなゴム分子間の結合(を模式的に表現したもの)です。もちろん、ゴムのかたまりは3次元的なものですので、あくまで説明のための図だと考えてください。

ところが、これを引っ張ると、ゴムの分子がどうしても引っ張られる方向に揃ってしまいます。上の状態のゴムを水平に引っ張ったのが下の状態です。上よりも下の方が「揃っている」ことがわかるでしょう。

揃うということはエントロピーが低下することを意味します。しかし、始めにご説明した通り「法則」として世の中 、エントロピーは増大しないといけないので、ゴムとしては元に戻ろうとします。この結果、伸びたゴムは縮むわけです。これをエントロピー弾性と言います。

バネも伸び縮みしますが、バネはエネルギー弾性というもの。実はゴムの伸び縮みとバネの伸び縮みは原理が違うのです(厳密に言うとゴムでも低温ではエネルギー弾性を示します)。

スパンデックス(ポリウレタン弾性糸)

さて、天然ゴムの中には上の図の緑の棒のような細長い分子がたくさんあります。

具体的にはポリイソプレンというものです。ポリというのはたくさんという意味で、イソプレンという物質がたくさんつながってできています。化学式で言うとCH2=C(CH3)CH=CH2になります。

よくある輪ゴム、あの黄土色の輪ゴムは天然ゴムからつくられたものです。

このように天然ゴムは今でも普通に使われていますが、天然ゴムだけでなく合成ゴムも使われています。

中でも衣類に使われているのがポリウレタンです。

ポリウレタンは天然ゴムより細く丈夫にできるので都合がよいのです。ただ、強度などが十分に強いと言えないため、通常は別の繊維と組み合わせて使われています。

具体的にはカバード糸、コアスパン糸、プライ糸があります。カバード糸はポリウレタン繊維の周りにナイロンなどをコイル状に巻き付けたものです。コアスパン糸はポリウレタン繊維をコアとして他の繊維を紡いだもの、プライ糸はポリウレタン繊維と他の繊維を撚り合わせたものです。

まとめ

よく運命の赤い糸で結ばれていると言いますが、これはできれば弾性糸が好ましいですね。なぜなら、赤い糸が無限に伸びるものだと、現実的には離れ離れと同じだからです。伸びても引っ張り合う力は弾性糸でないと生まれません。

残念ながら、赤い糸を目に見えるようにしたり、弾性糸にする方法は知られていません。これはあなたの努力と技量にかかっているのかもしれませんね。