大切なスーツをお手入れするうえで、アイロン掛けは欠かせません。
アイロン掛けをすることで形が整い、シワやヨレ、変なクセも正されます。
意外と知られていませんが、虫食いを予防する効果もあります。
アイロンの熱で、スーツに潜んでいる虫やその卵を、殺虫できるからです。
さらには殺菌効果もあり、イヤな匂いをおさえる効果もあります。
というように、スーツにとってアイロン掛けは、たいへん重要です。
何せ、スーツはビジネスの場で着るもの。
きちんとアイロン掛けできていれば、
- 清潔感が出る
- 信頼してもらいやすくなる
- ビジネスに対して、理想的な姿勢で向き合っている
というようなメリットが出てきます。
とはいえ、「アイロンの掛け方が、いまひとつわからない」という人もいるでしょう。
本記事では、クリーニング屋さんの息子である筆者が、スーツに対するアイロンの掛け方を解説します。
アイロンの温度について
何よりもまず、大切にして欲しいことがあります。
アイロンを掛けるときは、繊維に合った温度に設定する、ということです。
なぜなら繊維の中には、熱に弱いものがあるから。
熱に弱い素材を高熱でアイロン掛けしてしまうと、さまざまな悪影響が出てきます。
たとえば、
- テカリが出る
- 風合いが損なわれる
- アタリ(表面の毛が押しつぶされて、見映えが変わる現象)が出る
というようなことが起こります。
いずれも大事なビジネスシーンで使うスーツでは、決して起こってほしくない現象です。
ワイシャツの方に起こるならまだしも、ジャケットやスラックスで起こると、かなり悲惨です……。
ちなみに繊維ごとの適切な温度は、下記を参照としてください。
(複数種類の繊維が使われている場合は、もっとも使われている割合が多い素材に合わせます)
繊維の種類 | 適切な温度 | アイロンでの表示 |
コットン | 160度〜180度 | 高 |
リネン | 120度〜180度 | 中〜高 |
カシミア | 140度〜160度 | 中 |
ポリエステル | 110度〜150度 | 低〜中 |
ウール | 110度〜150度 | 低〜中 |
モヘア | 100度〜140度 | 低〜中 |
ナイロン | 110度〜130度 | 低 |
洗濯タグを見ると、上記表で紹介した温度よりも高い温度でアイロン掛けしてもよい、というようなマークがついていたりします。
ただ、長持ちをさせたいのであれば、マークよりも上記表にしたがってアイロン掛けすることがおすすめです。
スーツのアイロンには、「当て布」が必須
そして、絶対に忘れてはいけないのが、「当て布」を使うということです。
当て布を使わないと、熱で繊維が変形したり、傷んだりしてしまいます。
少し面倒かもしれませんが、当て布はかならず使うようにしましょう。
使う当て布も、なんでもよいというわけではありません。
できるだけ
綿(コットン)でできている
色が薄い(色移りを防ぐため)
生地が薄い
ものを使うようにしましょう。
という条件が揃っていれば、当て布はタオルでもハンカチでも、ただの布きれでも問題ありません。
正しいアイロンの掛け方
スーツにアイロンを掛ける際、大切なのは、「掛ける場所の順番」です。
正しい順番でアイロンを掛けていけば、美しい仕上がりになります。
また、生地も傷みづらく、長持ちしやすくなるでしょう。
特に高級なスーツなのであれば、順番はきちんと守っておきたいところです。
全体をとおして意識してほしいのは、「とにかく優しくアイロンを当てる」ということ。
上から圧をかけず、横に動かしましょう。
無理矢理に「しわ」を矯正しようとして、押し込んだりしないようにしましょう。
無理に力を入れなくても、アイロンは効くようになっています。
ちなみに今回紹介するのは、クリーニング屋さんでやっていることを、家庭用にアレンジしたものです。
ジャケット
ジャケットについては、
- 袖
- 背中
- 前身ごろ
- ラベル(襟の後ろ側にある、ブランド名が記載されている部分)
- 襟
という順番で、アイロンを掛けていきます。
特別に注意したいのは「袖」と「襟」。
両方ともデリケートな部分なので、特に慎重かつ優しく、アイロンを当てるようにします。
クリーニング屋さんでも、少し神経質になる部分です。
軽く手で引っ張るようにすると、綺麗な仕上がりになります。
スラックス
スラックスは、
- 腰周り
- 太もも周り
- 裾
- センタープレス
という順番でアイロン掛けするのが、クリーニング屋さんのセオリーです。
注意したいのは、センタープレスですね。
スラックスに通っている「センターライン」をくっきりと目立たせるように、プレスしていきます。
プレスといっても、さほど力は入れません。
センターラインがはっきりと見えるようになれば、見栄えも抜群です。
ラインを間違えて、いわゆる「二重線」の状態にならないよう、注意してくださいね。
Yシャツ
Yシャツは、
- 襟
- 肩
- 袖
- 左前身ごろ(左まえ半分)
- 背中
- 右前身ごろ(右前半分)
という順番でアイロン掛けするのが、クリーニング屋のやり方です。
やはり「襟」と「袖」は、特別に優しくアイロンしてあげるのがポイント。
ちなみに、ボタンは外した状態でアイロン掛けしましょう。
ボタンをつけたままだと、不自然な型がついてしまいます。
アイロン掛けにおける、その他のポイントは?
他にも、スーツのアイロン掛けを美しく仕上げる方法があります。
やや生乾きの状態でアイロンを掛ける
あまり知られてはいませんが、スーツのアイロン掛けをするときは、「やや生乾き」の状態がベストです。
なぜなら少しくらい水分を含んでいる方が、「しわ」は正しやすくなるから。
カラカラに乾かさず、少しだけ生乾きのタイミングを狙いましょう。
もちろん、霧吹きなどを使って、少しウェットな感じにさせるのも有効です。
また、ちょっといいアイロンには、便利な「スチーム機能」がついています。
スチーム機能があるなら、積極的に使いましょう。
おすすめは「浮かし掛け」というテクニック。
スチーム機能を使う際、少しだけアイロンを浮かします。
こうすることで、テカリなどになる危険が避けられるのです。
ちなみに、(最近はあまり見かけませんが)スチームを使ってはいけないスーツも存在します。
その場合は、スチーム機能を使わないようにしましょう。
もしスチームが使えないものであれば、洗濯表示にそのように記載してあります。
「まんじゅう」を使う
また、「まんじゅう」というアイテムを使うのも効果的。
まんじゅうとは、腕や腰の形を模した、「ひな型」のようなものです。
これをセットしたうえでアイロンを掛けると、美しく仕上がります。
型崩れや変なシワが入ることも防がれるので、すごくおすすめです。
ひとつ1,000円から1,500円程度で買えるので、出来栄えにこだわるなら、ぜひ使ってみてください。
まとめ
スーツというのは、たいへん繊細な洋服です。
素材にもよりますが、ちょっと熱が強すぎるだけで、機嫌を損ねてしまったりします。
また、テカリやアタリも起こりやすい部類に入ります。
とは言いつつも、スーツを着るシーンから考えれば、失敗はしたくないところです。
本記事を参考に、正しいアイロン掛けで、美しく仕上げてくださいね。
クリーニング屋さんに出した場合と比べると、多少は見劣りするかもしれません。
それでも、ビジネスシーンで着る服として、決して恥ずかしくない仕上がりになるはずです。