色はいろいろ

亜麻色の髪の乙女

 

「亜麻色の髪の乙女」(あまいろのかみのおとめ)という曲を聴かれたことがあるでしょうか?

 

もともとはフランスの作曲家クロード・アシル・ドビュッシーが20世紀初め1910年頃に作曲したピアノ曲です。

 

同じタイトルの曲を、ヴィレッジ・シンガーズが1968年に発売し、いろいろな人のカバー曲でも知られています。特に2002年の島谷ひとみさんによるカバーが有名かもしれません。

 

なお、タイトルは同じですが、ドビュッシーの曲とヴィレッジ・シンガーズの曲は全く別物です。

 

「亜麻色の髪の乙女」というと「亜麻色」が「甘い色」に通じる響きがあり、甘美な魅力を持った少女・女性という雰囲気を感じさせるのかもしれません。とても魅力的なタイトルです。

 

しかし、亜麻色っていったいどんな色なのか、というとなかなか想像が付きにくい方も多いのではないでしょうか。

 

 

亜麻とは?

 

そもそも亜麻(あま)とは何でしょうか?

 

字からすると亜麻は麻(あさ)と関係ありそうです。

 

実は一般に「麻」と呼ばれる繊維は、かつては、大麻(たいま)や苧麻(ちょま・からむし)から採られるものでした。大麻の繊維は英語ではヘンプと呼ばれ、苧麻の繊維は英語ではラミーと呼ばれます。

 

ちなみにお洒落なコーヒー屋さんやチョコレート屋さんの店先にコーヒー豆やカカオ豆を詰めた「麻袋」が置かれていることがあります。あれは「黄麻」(こうま)という植物の繊維でできています。黄麻はジュートとも呼ばれます。地理の授業で名前を聞いた方もいるのではないでしょうか?

 

麻袋は雑な取扱いを受けたり積み上げても破れたりしないので農産物の輸送にはよく使われています。

 

というわけで、実は「麻」と言われているものはいろいろあるのですが、大体は、繊維が硬めで、手でさわっただけでもチクチクしたり粗い織りが多いものの、丈夫というのが“本来の麻”の一般的な特徴です。

 

江戸時代、農民は基本的に麻布(あさぬの)の服しか着ることが許されませんでした。麻の布は丈夫ではあるものの質素なものだったのです。上にあげた写真が麻布(あさぬの)のイメージです。

 

ところが、現在、麻という名称で流通しているものは大半が亜麻からつくられています。亜麻の繊維は英語ではリネンと呼ばれます。

 

今でも、リネンというと、ホテルなどで、シーツや枕カバー、タオルなどの布製品のことを言ったりしますが、基本的にはああいう感じのもの、つまりしっかりしていて繰り返し洗濯してもへたらない布が亜麻の布だったわけです(もっとも、現在、リネン類は必ずしも亜麻製ではありません)。

 

いろいろ紛らわしいのですが、要するに亜麻というのは繊維を取る植物の一種で現在、麻として売られているものが多くの場合「亜麻」だと考えればよいでしょう。本来の麻(上記のように、大麻、苧麻、黄麻)に比べ柔らかく清潔感のある用途が多いのも特徴です。

 

 

亜麻色って何色?

 

さて、結局、「亜麻色」は何色なのか?

 

実は、亜麻の布の色は白か多少黄色い白です。ところが、亜麻色についてはカラーコードでは上記のような色です。少し黄色っぽい栗色という感じでしょうか。亜麻と言うよりは本来の麻(上記のように、大麻、苧麻、黄麻)に近い色です。

 

 

それでは「亜麻色の髪の乙女」は冒頭の写真に挙げた少し栗毛っぽく染めた女性の髪が光を浴びて淡く輝いているようなイメージかと思いきや・・・

 

これにはどうも異論があるのです。

 

 

金髪説

 

それが金髪説です。

 

もともと、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」の原題は” La fille aux cheveux de lin”というものです。filleが「乙女」です。亜麻色の髪はcheveux de linという部分です。

 

linというのが亜麻です。そこで、cheveux de linを仏英辞典で調べるとflaxen-hair となっています。flaxというのは植物としての亜麻を指す言葉でflaxenはその形容詞です。

 

小学館の『プログレッシブ英和中辞典(第4版)』にはflaxen hairを「亜麻色の髪(金髪の一種)」と説明しています。

 

この辺りを含め、flaxen hairが金髪の一種だというのが金髪説の根拠のひとつのようです。

 

ちなみにflaxen-hairを検索していたら『フランダースの犬』に出てくるネロの友だちの少女アロアがこの髪の毛をしていました。『フランダースの犬』はイギリスの作家ウィーダ (Marie Louise de la Ramée) が1872年に書いた物語です。アロアは亜麻色の髪の乙女なのでしょう。

 

 

ルコント・ド・リール

 

 

また、ドビュッシーはルコント・ド・リールというフランスの詩人の詩からこの曲のタイトルを取ったと言われており、その原詩の一節は以下のようなものです。

 

Sur la luzerne en fleur assise,

Qui chante dès le frais matin ?

C’est la fille aux cheveux de lin,

La belle aux lèvres de cerise.

 

前後を含め大体の意味を説明すると、ひばりの鳴く夏の爽やかな早朝、花咲く草原で赤い唇をした美少女が歌っているという情景です。

 

当然、きらびやかな朝の光が差しているのでしょう。素人考えで恐縮ですが、おそらく、そういうピュアな感じに溢れる情景なので、この髪の毛の色もそんなに派手な色ではないのでしょう。

 

フランス語でmatin と韻を踏む都合上、lin という単語を使ったこともあるのでしょうが、金髪といってもすごく薄い色合いなのでないでしょうか? おそらくは、亜麻のけがれていない素朴な美しさが反映されているのがこの亜麻色なのではないかと私は思います。色としては「金髪」がかっているにしても、かなり淡い色合いでしょう。

 

 

まとめ

 

もともと島谷ひとみさんの「亜麻色の髪の乙女」はCMソングだったそうです。ダメージケア用シャンプーのCMに流れる歌だったそうです。

 

そういう点を考えると、現代版の「亜麻色の髪の乙女」の亜麻色は実際にはどんな色でも良いのかもしれません。要するに美しい女性的な髪を象徴するために使われているからです。

 

ただ、亜麻という植物の繊維が、自然にはぐくまれて成長してさまざまな場所で輝いているように、髪の毛も自然の中で美しい輝きを見せている。それが、この「亜麻色の髪の乙女」をめぐる時間の流れを貫く一条の繊維のような気がします。