『プリントと染色』について

先日、繊維部門の社内会議資料で「常カチオンエステル」という言葉がありました。

専門用語ではなく、業界担当者間で交わされる素材名で「常圧カチオン染ポリエステル」の略語です。

繊維原料を取り扱う部門以外の方は「何のこと?」と調べた方もおられるでしょうが、知らないままの方もおられると思いますので、説明したいと思います。

染色やプリントについては、幅広く奥深い分野ですので、この記事だけでは説明できません。

今回は、プリントでは「染料プリント」と「顔料プリント」の違い、染色については「ポリエステル染色」に絞って説明します。

 

<染料プリントと顔料プリント>

衣類のほとんどは染料か顔料で着色されています。染料も顔料も、見た目は色のついた粉末ですが、溶剤(水や油)の液体に溶ける着色剤を染料、溶けないものを顔料と言います。

下図のように、染料は生地に染み込ませ、顔料は糊材(バインダーと言います)と混ぜ合わせ、生地に定着させます。したがってプリントした生地の裏面で判別ができます。

 

 

顔料プリントは、耐光性(耐紫外線)に優れ、色や文字・図柄を鮮明にできる反面、摩擦に弱いという点があります。

一方、染料プリントは、繊維にムラなく着染し、自然に近い色合いを出せる反面、顔料に比べると色褪せや変色を起こしやすいという点があります。

※ちなみに、顔料の始まりは紀元前2万年以上前、古代人類によって、有色土や木・貝殻などを燃やした灰を、水や動物の油と混ぜ合わせたのが原形で、洞窟壁画に用いられたと言われています。一方、染料は紀元前1500年頃、地中海沿岸のエジプトやギリシャで、染め物に用いられた貝の身から採れる液体が最初で、その後、インドでも植物からの染料で藍染め等が始まったと言われています。

 

<染色について>

染色とは、繊維の中に、染料を入り込ませ、そこに長く留ませることと言えます。

染料には化学染料、草木などの天然染料があり、繊維の種類によって染められる染料や染色方法が異なります。

ちなみに化学染料には直接染料、反応染料、酸性染料、分散染料、塩基性染料等があります。

 

 

<ポリエステル染色について>

ポリエステルは化学繊維の中で最も生産量が多く、衣服やインテリア、産業資材など様々な用途に使用されています。優れた強度、扱いやすさ等が特長ですが、その一方で分子の結晶性が高く、構造が緻密であるため、染色しにくい繊維でもあります。

通常は、130~135℃の高温・高圧下、分散染料で染色されます。高温高圧で、繊維の分子の隙間を拡げ、その間に染料分子を入り込ませた後、常温になって隙間が元に戻り、染料分子を閉じ込むという方法です。

ただその方法であれば、ウールやアクリル、ポリウレタン等との混紡生地の場合、高温高圧により、風合いや片方の素材の特性を低下させてしまうとう難点がありました。

また130~135℃の高温での染色のため、染色工程におけるエネルギー消費量や温室効果ガス排出量が、環境意識の高まりとともに省エネ化が課題となっていました。

 

<常圧可染ポリエステルについて>

そこで開発されたのが「常圧可染ポリエステル」です。

ポリエステルが開発された1950年代には、有機化合物「キャリア」という助剤を使うキャリア染色という方法で、常圧100℃での染色もありましたが、臭気や毒素などの環境・安全面から、130℃での高温高圧染色に移り変わりました。

近年では、高速紡糸や糸の異型断面化(通常の糸の断面:丸型を変形させた糸)、あるいは

ポリマー改質(高分子化)によって、分散染料を使っても100℃前後での常圧染色を可能とするポリエステルが多く開発されています。

その結果、省エネルギー化・温室効果ガス排出量の削減にもなりました。

 

<常圧カチオン染ポリエステル>

上記の常圧可染ポリエステルのポリマー改質により、カチオン染料を用いた常圧染色を可能にしたポリエステルも開発されました。

カチオン染料は塩基性染料で、主にアクリル繊維に使用されていますが、分散染料に比べて発色性や染色堅牢度が優れるという特長があるポリエステルです。

 

繊維では、ポリエステルだけでも、このように染色技術の向上と共に進化しています。

これからは、ESG(環境(Environment)社会(Social)ガバナンス(Governance))やSDGs (Sustainable Development Goals持続可能な開発目標)等を目標にした、より地球に、環境にやさしい繊維が開発されてゆくでしょう。